ネットワークの奥深さを感じさせる研究です。

アメリカのノースウェスタン大学(NU)で行われた2024年の研究で、これまで数学的に証明困難だった「敵の敵は味方」という社会理論を裏付けることに成功したという

「敵の敵は味方」理論は古くから存在する有名な社会理論でしたが、意外なことにこの理論を数学的なネットワーク理論で証明しようとすると「成り立たない」ケースが多くみられました。

この研究では人間関係の繋がりを構築する際に幾つかの現実的な枷(かせ)を設定したところ、この古くからの理論が数学的にも存在していることが示されたという。

しかしいったいなぜ既存の研究は、誰もが知っていて簡単に説明できそうな社会理論の証明に、長く手こずっていたのでしょうか?

研究内容の詳細は2024年5月3日に『Science Advances』にて公開されています。

目次

  • なぜ数学は「敵の敵は味方」の証明をできなかったのか?

なぜ数学は「敵の敵は味方」の証明をできなかったのか?

誰もが一度は「敵の敵は味方」という言葉を聞いたことがあるでしょう。

この理論は人間関係に留まらず、大規模な組織や国家間にも適応されており、人間社会において普遍的な社会理論となっています。

この「敵の敵は味方」理論は必然的に「敵の味方は敵」「味方の味方は味方」「味方の敵は敵」という合計で4つのパターンを内包しており、合わせて「社会均衡理論」と名付けられています。

(※以降はわかりやすさを重視して社会均衡理論を「敵の敵は味方」理論と表記します)

この「敵の敵は味方」理論は1940年にオーストリアの心理学者フリッツハイダーによって発表されましたが、それ以前から慣用句としても定着していました。

そのため現在に至るまで数え切れないほどの研究が、この理論をネットワーク理論を用いて数学的に実証しようと試みられてきました。

それらの研究ではヒトを点、関係の繋がりを線で表したものが用いられており、さらにそれぞれの線は敵ならばマイナス、味方ならばプラスの値がつけられています。

人間関係を扱うネットワーク科学では、人を点(ノード)とし、人間関係を線(エッジ)と扱うことが一般的です
人間関係を扱うネットワーク科学では、人を点(ノード)とし、人間関係を線(エッジ)と扱うことが一般的です / Credit:clip studio . 川勝康弘