しかし、ヒトに近縁な霊長類において、おばあちゃんの存在が確実である種は、我々ヒトのみであるため、「おばあちゃんのいる種にのみ共通してみられる特徴をみつける」ことが困難です。
一方、ハクジラではおばあちゃんのいる種が5種類確認されており、その比較対象となるおばあちゃんのいない種もたくさんいます。
そのため、ヒトを含む霊長類では不可能であった、比較による「おばあちゃん進化の謎の解明」がハクジラであれば可能です。
そこで、エクセター大学(University of Exeter)のエリス氏(Samuel Ellis)を中心とするチームは18種のハクジラを比較することでおばあちゃんの進化の謎の解明に挑みました。
ヒトとイルカ・クジラのおばあちゃんの進化メカニズムは同じだった
エリス氏たちはまず、おばあちゃんのいるハクジラは、おばあちゃんのいないハクジラに比べて、「寿命が長い」ことを明らかとしました※2。
またおばあちゃんのいるグループでは寿命が長いことに加えて、さらに「寿命のうち、繁殖のできない期間のみが長い」ことも明らかにしました。
この発見はなにを意味するのでしょうか?
実は、この発見の意味を理解することが、おばあちゃんの進化を理解するうえでとても重要です。
※2哺乳類はふつう、体が大きいと寿命が長くなります。その影響を考慮しても、おばあちゃんのいる種は、期待される以上に寿命が長かった。

最初にお話しした通り、生き物のあらゆる行動や生活様式は、自分の子孫を残すことに直結しています。
では、自分では直接子孫を残すことのできないおばあちゃんは、いったいなにをしているのでしょう?
エリス氏たちの説明は「自分の娘/息子や孫をサポートする」というものです。
エリス氏を含むチームは、おばあちゃんのいるハクジラであるシャチを対象とした研究にて、豊富な知識をもつおばあちゃんが率先して家族を餌場へと導くことや、おばあちゃんが娘の仔育てを手伝うことなどを明らかとしてきました。