前述のような工夫を施せなくても、楠瀬前監督時代に機能していたホットラインを活かすという最終手段が、堀監督には残されていた。

楠瀬前監督が率いていた2023/24シーズン後半で浦和RLのビルドアップを支えたのは、MF栗島朱里。特に味方センターバックと右サイドバック遠藤の間へ降りて配球を担うプレーが、相手チームのプレスを掻い潜るのに有効で、快足の遠藤を高い位置へ押し上げる効果もあった。

(図4)栗島が味方センターバックとサイドバック間へ入る

先述の新潟戦でも栗島がボランチとして先発し、センターバック後藤と右サイドバック遠藤の間へ降りて配球を担っていれば、失点には繋がらなかったかもしれない。この試合で栗島はベンチスタートとなり、ピッチに投入されたのは後半41分。楠瀬前監督時代に、阿吽の呼吸でチャンスを作っていた栗島と遠藤のホットラインも、堀監督は活かせなかった。


浦和レッズレディース サポーター 写真提供:WEリーグ

「笑顔あふれる浦和レッズレディースを返せ!!!」

リーグ戦ラスト3試合の失速でWEリーグ3連覇を逃した事実のみならず、これまで述べてきた攻撃配置の不具合を堀監督が修正できなかった点を踏まえると、楠瀬監督の解任を断行したクラブ首脳の判断は誤りと言える。WEリーグ3連覇の可能性が十分に残されていた状況下での監督交代に、合理的な理由は何ひとつ見当たらない。

2023/24シーズンのWEリーグ得点女王に輝いたFW清家貴子が、昨夏にブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン(イングランド)へ移籍。同選手に匹敵する即戦力が加わらないなか、楠瀬監督はチームを軌道に乗せている。この点を踏まえても不可解な監督交代だった。

同クラブは4月10日、クラブ公式サイトにて楠瀬監督の解任について説明したものの、「レッズレディース本部の本部長とスポーツダイレクター(SD)への責任に言及したご意見をいただいておりますが、チームの成績に関わる範囲で、最も責任を負うのは監督です」という一文が物議を醸す。AFC女子チャンピオンズリーグ準々決勝敗退の全責任を、楠瀬前監督に負わせているようにも読み取れるこの文言が、多くの浦和サポーターの怒りに繫がった。