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国家の指導者は、過去に起こった出来事を頼りにして対外政策を決定することがあります。その際、「歴史のアナロジー」は、政策決定者にとって、しばしば、よきガイダンスになります。
無政府状態(アナーキー)において、国家は高い「不確実性」と格闘しなくてはなりません。政策決定者は、我が国が直面する問題はどのような性質なのか、ある政策を選択した場合に相手国はどのような対応をとるか、採用した政策は問題解決につながるか、といった一連の問いを発しながら、その答えを探りあてていかなければなりません。
その一方で、いかなる選択や決定をしたにせよ、その結果がどうなるかは、究極的には分かりません。そのため政策決定者は、実行可能な選択肢を分析するとともに、それらの中から、どれを選ぶのかを決める際には、何らかの手掛かりになるようなものを欲するのです。
その1つが「歴史のアナロジー」です。アーネスト・メイ氏は、古典的な名著『歴史の教訓―戦後アメリカ外交分析—』(進藤榮一訳)中央公論社、1977年(原著1973年)において、その冒頭で「外交政策の形成者は、歴史が教えたり予告したりしていると自ら信じているものの影響をよく受ける」(iページ)と喝破しています。
歴史のアナロジーは、政治家が実際の意思決定の際にしばしば参照しているといわれているにもかかわらず、政治学において、このテーマは多くの学者の関心を引くものとは必ずしもいえないものでした。このことは、政治学者が「歴史のアナロジー」をまったく研究してこなかったというのではありません。「歴史のアナロジー」に関する既存の研究には、目を見張るような素晴らしいものもあります。
その1つが、Y.F.コーン氏(シンガポール国立大学)による『戦争におけるアナロジー—朝鮮戦争、ミュンヘン会談、ディエンビエンフーと1965年におけるヴェトナム介入の決定―』プリンストン大学出版局、1992年です。