では研究チームはどのようにして、物体が止まる向きを計算しているのでしょうか?

ポイントは重心の高さと凸包(とつほう)です。

物体が転がって最終的に安定するのは、重力によって重心ができるだけ低くなる向きで止まるためです。

言い換えれば、重心の位置が他より低い姿勢は安定しやすく、それが物体の「出目」に相当します。

研究チームはまず物体の形状全体を外側から包む最小の凸型の多面体(凸包)を考え、次にその凸包が各面・辺・頂点で地面と接したときに物体がどんな向きになるかを系統立てて整理しました。

具体的には、物体を様々な角度に傾けた際に重心の高さがどう変化するかを単位球上にマッピングします(ガウス写像と呼ばれる手法)。

球面上のある点は物体の特定の向きを意味し、その点の高さに対応する重心の高さを計算することで、「どの向きで重心が最低になるか」「その向きでは物体のどの部分が下になるか」がわかるのです。

この重心高さの分布(球面上の関数)を解析し、傾きに応じて物体が転がっていく経路をすべて追跡すれば、初期のランダムな向きから出発して最終的にどの面で安定するかの確率を計算できます。

こうした純粋に幾何学にもとづく計算法により、従来の物理シミュレーションに比べ大幅な高速化が達成されました。

研究論文によれば、計算速度は従来比で単純な形状では約400倍、複雑な形状でも60倍にもなり、たとえばブタの形をした玩具サイコロ(有名なパーティーゲーム「Pass the Pigs」ではブタのミニチュアを振って出目を競います)の6通りの静止パターンと確率もわずか0.003秒(3ミリ秒)で計算できたと報告されています。

これほど高速であれば、リアルタイムに近い形でデザイン中のモデルの安定性をチェックすることも夢ではありません。

研究チームは次に、この計算法を応用した「逆問題」に取り組みました

なわち、「指定した確率で止まるサイコロの形状を自動で設計する」という挑戦です。