この時、日中帯だったため系統内における回転機発電(火力・水力・原子力)の比率が相対的に低く、慣性力が不足していたことも、被害を拡大させた要因の一つだと思われます。

日本はどうか?

日本においても、類似の構造的リスクが存在します。たとえば、九州から中国・関西方面への電力の流れについては、事故が発生しても系統が不安定化しないよう、あらかじめ流量を抑制しています。いわゆる再エネ発電の出力抑制は、そうした系統安定性のために必要な措置なのです。

しかし、マスコミでは「貴重な再エネ電気を捨てている」といった批判ばかりが強調されがちです。こうした抑制措置を十分に行っていれば、スペインのような大規模停電が日本で起こる可能性は低いと考えられます。

ただし、今後さらに再エネ導入量が増え、「もっと流せるはず」といった主張をする御用学者や政治的圧力が現れた場合、同じようなリスクを抱える可能性も否定できません。

以前から指摘しているように、発電所の建設と送電線の建設は本来一体で計画すべきものです。実際、送電線も発電所も、計画から環境アセスメントを経て運転開始に至るまで、通常10年近い時間がかかります(ただし、PVについては環境アセスメントの規制が緩和されており、環境への影響に配慮されないまま建設されるケースも多いのが実情です)。

かつての発送電一貫体制のもとでは、こうした開発が効率的かつバランスよく行われてきました。しかし、電力の自由化以降、この調和は崩れ、発電と送電の責任の分離による非効率が目立ち始めています。

スペインの事例は、自由化の先にある危機の一端を示したとも言えるでしょう。日本も同じ道をたどる前に、早急にエネルギー政策の再評価と方向転換が必要ではないでしょうか。