私の推定では、これらは送電線に関連した事故だったのではないかと考えています。たとえば、単発的な短絡事故や地絡事故といった、特に珍しくはない類の送電線事故です。これらの事故は、通常であれば停電には至らず、多くの人にとって「発生していない」ように感じられるかもしれません。しかし、実際には日本国内でも年間数百件の送電線事故が発生しており、そのうち停電に至るのはごくわずかです。スペインでも、同程度の発生頻度である可能性は高いと考えられます。

とはいえ、今回のように広域停電にまで発展する事例は極めて稀であり、スペインにおいては、2021年7月に発生した山火事によるスペイン~フランス連系線の事故以来の大規模な事象であると思われます。

ただし今後は、再生可能エネルギーの大量導入によって系統がより複雑化・脆弱化し、これまでなら単発で収束していた送電線事故が、連鎖的に影響を及ぼし、広域停電につながるケースが増加するのではないか――このような懸念を抱かざるを得ません。

送電線において、単発的な地絡事故や短絡事故が発生しても、直ちに停電に結びつかないのには理由があります。多くの送電線には、あらかじめ迂回ルートが構成されており、その冗長性によって事故時の供給継続が可能になっているためです。

例えば、送電線の構造としては、図8に示すように6本の導体(電線)が張られているものが一般的です。これは、三相交流を用いた2回線構成となっており、1回線に障害が発生しても、もう1回線を使って電力を迂回させることで、送電を継続できる仕組みになっています。

図8 日本の一般的な送電線九州電力webから

ただし、この場合でも送電容量は減少します。ちょうど、2車線の道路が工事などにより1車線に減少したときを想像してみてください。車両が少なければスムーズに合流できる一方、交通量が多い場合には合流地点で渋滞が起こり、場合によっては追突事故が発生することもあります。