電力系統も同様で、流れる電力量が少ない場合には1回線でも問題なく対応できますが、大きな電力が流れている状況では、負荷が集中することで「渋滞」や「事故」が発生します。電気の世界では、これが「脱調現象」として現れ、電圧や周波数の大幅な変動、さらには停電につながることもあります。

今回のイベリア半島における広域停電の背景として、私は次のようなシナリオを想定しています。

太陽光発電の大量導入により、スペイン南西部では日中帯に限って電力が東向きに大量に流れる“重潮流”状態が常態化していました。そこに、送電線の単発的な事故が3件も重なったことで、通常であれば系統が耐えられるはずのトラブルが、より深刻な事象へと発展したと考えられます。

特に、再生可能エネルギーは火力や水力、原子力と比べて系統に与える「慣性力」が弱く、系統安定性に貢献しにくい特性があります。そのため、事故によって一部のPVや風力発電が停止し、需給バランスが急速に崩れたことで、連鎖的に火力・水力・原子力発電も停止。結果として広域的な停電が発生した――というのが、私の考える有力なシナリオです。

イベリア半島大規模停電まとめ

今回のイベリア半島における大規模停電の背景には、いくつかの構造的な問題があると考えられます。

第一に、太陽光発電(PV)は日照条件の良い地中海沿いの南西部に集中し、風力発電は風況の良い北西部に偏在しているという地理的配置があります。しかし、それらの発電電力を大消費地に届けるための送電インフラの整備が追いついていない状況でした。

第二に、再エネ大量導入以前は、フランスからの電力輸入も含め、マドリードなどの大都市には東西両方向からバランスよく電力が供給されていたのに対し、2025年現在では、南西部のPVから日中に大量の電力が東方向へ流れる「一方向の重潮流」構造が形成されています。

このような中で、単発の送電線事故が3件発生。通常であれば問題にならない事故でしたが、大量の再エネが稼働していた時間帯に起きたことで系統が脱調(電圧や周波数の大きな変動)を起こしました。電圧変動に脆弱なPVや風力が停止し、続いて火力などの回転機系発電も停止。その結果として、広域停電に発展したと考えられます。