5.本人の気質・向上心
これは職場環境とは関係がない、個人の内発的な要素であるが、本人が元から持っている気質や向上心も重要である。
「同じ給与なら業務を最小限に留め、会社の福利厚生を最大限に活用することに価値を見出す」という者と、「同じ働くなら、ビジネスマンとしても人としても大きく成長したい」と思える者とでは仕事への取り組み方は全く異なる。
正直、知的好奇心や成長意欲、体力や前向きな性格はある程度の傾向は生まれつきの素養に見られるものの、適切な環境や経験を通じて育まれる余地も大きいファクターである。
職場がそうしたやる気や向上心を引き出しやすい、もしくは挫く要素を排除しているなら、パフォーマンスは最大化されるだろう。
「給料が安いからやる気が出ない」が拡散する理由
さて、以上を踏まえて給与以上にやる気スイッチは数多く存在し、さらに人によって刺激されるポイントは多様であることを論じてきた。それにも関わらず、いつの時代でも「給与が一番やる気で大事」という話が拡散されるのだろうか?
その理由はお金がシンプルで説明しやすいため、多くの者が自身の複雑な感情や状況をそこに集約する「言語化の難しさ」にあると考える。これは、そのように感じる者を否定しているわけではなく、要するに、言語化し、感覚値で説明する難易度の問題である。
人間関係、組織文化、裁量の欠如といった複数のファクターを個別に言語化し、自分に応じた重み付けをするのは、かなり高度な作業となる。そもそも、この要素を認識せず、やる気が出たり下がったりを繰り返しながら働く者が多いのではないだろうか。つまり、自分で自分のやる気の出どころを知らないため、具体的に話に出てこないということにすぎない。
その結果、数字で明確、かつシンプルに取り上げやすい給料に矛先が向くというわけだ。
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給与は短期的な「興奮剤」にすぎない。持続的な「やる気」は、個人の内なる欲求と、それを引き出す環境によって育まれる。企業は給与以外の多様なモチベーション要因を理解し、個人は自身の「やる気スイッチ」を自覚することが、真のパフォーマンス向上に繋がる。