だが、その感情は長くは続かない。人間には「快楽順応」という心理的なメカニズムがある。どんなに大きな報酬による興奮も時間とともに慣れてしまい、何も感じなくなっていくのだ。そしてやがて、上げてもらった給与を「当たり前」と感じるようになり、昇給直後は張り切っていた者でもまた手を抜いて意欲的に取り組まない選択をするケースが出てくる。

ノーベル経済学賞受賞者である心理学者のダニエル・カーネマンらの研究では、幸福度と所得の相関は、一定の収入レベルを超えると上昇が鈍化することが示唆されており、これはまさに快楽順応の一例と言えるだろう。

人間はエネルギーを節約しようとする傾向があるため、昇給やボーナスくらいで恒久的にその習性を撃退できるほど甘くはないのだ。

仕事のやる気スイッチ

それではどうすれば仕事の行動意欲は湧いてくるのだろうか?実はその答えは極めて複合的かつ人によって強く反応する部分とそうでない部分に分かれる。

そのため、すべての人に該当する要素を1つに絞ることはそもそもできないテーマであり、ヒット率を高めるために多く列挙することになる点をご容赦いただきたいが、ここでは代表的な5つの「やる気スイッチ」を紹介する。

1.強制力

世の中には自発的に行動する者、まったくやる気が出ない者、そして中間としてある程度強制力があれば行動できる者に3分類できる。

一番最後の「強制力があれば頑張れる」は最も多くの者に該当する。オフィス勤務で周囲の目があり、堂々と自由にお菓子を食べたり寝転んで動画を見たり出来ない空間なら、やる気が無くても頑張れるのだ。そして人間には「作業興奮」という心理があり、強制力のある環境で行動する内に徐々にエンジンが温まっていく。

リモートワークからオフィス勤務回帰をした理由はコミュニケーションが非効率というのはあくまで一部の建前である。その真意は、強制力が働かないことでやる気を出せない社員の統制が取れなくなり、組織全体のパフォーマンスの低下が主要因であろう。