コメ価格の高騰が、庶民の生活を苦しめていることへの対策ということであれば、想定される備蓄米の放出による損失を財源にして、低所得者の直接的な経済的支援を図る方が得策ではなかろうか。
また、2,000円という価格がもし継続するとすれば、多くのコメ農家にとって生産原価を大きく下回る水準であり、そのような価格水準が長期化すると、それによってコメ農家の経営が成り立たなくなり、離農や減反が進行し、将来的な国内生産力の低下を引き起こすリスクがある。
このように考えると、備蓄米の随意契約による放出は、あまりに問題が大きい。
むしろ、これまで通りの公開入札による備蓄米の放出を継続することで透明性と公平性を確保する方が得策ではなかろうか。
その場合、コメ価格全体がただちに下落することにはならないが、コメ価格高騰による影響の低減については、低所得層への食料支援(フードバウチャーや給食制度の充実など)を通じて、必要な層に直接的な恩恵を届ける政策の方が望ましいのではないか。
そもそも、今回のような「コメ騒動」が起きたことの背景に、長年にわたる減反政策で、コメの生産力が低下していることがある。コメの自給率の維持のための農業政策の見直しこそが重要である。
かかる意味では、国内需要の喚起(学校給食への地元米使用の拡大、外食産業との連携)や、海外市場への販路拡大を図ることで、構造的な需給バランスの改善を目指すべきである。
備蓄米の放出は、短期的にコメ価格を下落させることには有効な政策手段となり得るが、その方法には慎重な配慮が求められる。市場原理と公平性を尊重しつつ、農業の持続可能性と国民生活の安定を両立させる政策こそ、今後の食料安全保障にとって重要であり、小泉農水大臣の国民受けを狙ったパフォーマンスとも思える「随意契約」による備蓄米の放出は、今後の国民生活にかえって大きな負の影響を与え、禍根を残すことになりかねない。