「コメは買ったことがない」発言で辞任に追い込まれた江藤拓氏の後任として農林水産大臣に就任した小泉進次郎氏は、就任会見で備蓄米を随意契約で安値放出する方針を打ち出し、その後、テレビ番組に出演するなどして価格を5キロ当たり2000円まで下げる方針を明言している。

NHKより
コメ価格高騰に対する国民の不満に対するパフォーマンスにも見えるこの「備蓄米随契による安値放出」には、農水省の施策としてコンプライアンス上の問題がある。コメ価格の下落で喝采を受けても、中長期的にみると、コメの需給をめぐる弊害、混乱の拡大につながる恐れがある。
そもそも備蓄米は、本来、天候不順や自然災害、病害虫の被害、戦争や国際情勢の変化などによって、国内の米の生産や供給が一時的に困難になった場合に、国民が必要な食料を確保できるようにするためのものである。それを、コメ価格の変動に対応して国が価格を操作する目的で使うこと自体が、本来の目的に反する。
しかも、備蓄米は、国の財産であり、売買契約契約を締結する場合は、原則として、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないこととされている(会計法29条の3第1項)。
今回実施されようとしている「随意契約」は、入札などの競争を経ずに特定の業者を国側が選定して契約する方式であり、①契約の性質又は目的が競争を許さない場合、②緊急の必要により競争に付することができない場合、及び③競争に付することが不利と認められる場合において行うことができるとされている契約形態である(同条第4項)。
今回の備蓄米の売却は、これまで入札で行われていたのであるから、①の「競争を許さない場合」にも、②の「競争に付することができない場合」にも当たらないことは明らかだ。
問題は、③の「競争に付することが不利」と言えるかどうかである。
備蓄米を市場に安く供給することが現在の政府の意向だとすれば、入札で競争させることで価格が高くなることは政府の意図に反することになるとは言えるだろう。しかし、会計法の規定の「不利」というのは、競争に付することによって高値で売却できることにより得る経済的利益を上回る具体的な不利益が生じることである。国の政策や意図に反することは「不利」には含まれない。