そうすると、備蓄米の随意契約による放出は、会計法上許容されているとは言い難い。それでも随意契約で放出するというのであれば、政治判断による「超法規的措置」と言うほかない。過去備蓄米が随意契約で売却されたのは、災害時のみである。問題は、超法規的措置をとってまで随意契約で売却することが実質的に妥当と言えるかどうかだ。
随意契約は競争入札と異なり、業者選定や価格設定の透明性の問題が生じかねない。政府が随意契約によって価格操作を行うことが特定の業者に利益をもたらす可能性もあり、公平性を欠く懸念もある。中小の流通業者や消費者団体が排除されることで、結果的に国民全体への還元が不十分になる懸念もある。
中間の通業者を通さず直接小売業者に供給することで流通段階でのマージンを排除して価格を安くすることが目的なのであれば、入札参加資格を小売業者に限定すればよいのであり、入札を行わずに随意契約で売却することの理由にはならない。
随意契約による価格設定は、市場の需要と供給による自然な価格形成を阻害する。今回、小泉農水大臣は、備蓄米放出で「需要があれば無制限に放出する」と述べており、供給量を増やすことで価格抑制を強化する考えを示している。それにより、短期的には価格下落の効果があるかもしれないが、中長期的には米価の不安定化を招き、生産者・流通業者双方に混乱をもたらすおそれがある。
また、コメの備蓄制度が維持される限り、国は、今回放出したコメと同量を買い戻さなければならない。
随意契約で安く放出した場合、それによって、市場価格の下落が継続すれば、将来的な買い戻し価格も抑えられることになるが、市場価格は小売段階で「市場が決める」ため、コメの市場全体からすると僅かな量に過ぎない備蓄米の安値放出では、消費者価格の大幅な低下につながらない可能性がある。
「買い戻し」について、市場価格や取引実例価格を基準に購入するという備蓄米補充の通常の方法をとった場合、備蓄米の放出後も市場価格が下落する保障はないので、結局のところ、買い戻し価格が放出価格を大幅に上回り、国に財政的な損失が発生することになる。