たとえば2016年の研究では、呼吸に意識的に注意を向けるマインドフルネス呼吸瞑想によって扁桃体と前頭前野の結びつきが強まり、情動コントロールが向上することが報告されています。
これは不安やストレスを感じた際に「深呼吸すると落ち着く」といった経験則を裏付ける神経基盤と言えるでしょう。
また、呼吸が脳の広範囲を同期させ認知機能を高めるのであれば、仕事や勉強の前に数分間の呼吸エクササイズを行うことで集中力や記憶力をブーストできる可能性も考えられます。
事実、前述のゼラノ氏らの研究では鼻からの吸息時に認知性能が向上することが示されており、鼻呼吸を意識することで脳の情報処理効率を高められるかもしれません。
総説のタイトルにある「グローバル(全球的)な協調」という言葉どおり、呼吸は脳全体の協奏を司る指揮者のような存在だという視点が、今や現実味を帯びています。
普段は意識しない呼吸ですが、そのリズムに耳を傾け制御することが、脳を最適な状態にチューニングする鍵になるかもしれません。
科学者たちは今後、呼吸による脳同期が具体的に集中力や創造性、メンタルヘルスにどう活かせるかを解き明かしていくでしょう。
もしかすると、「全集中の呼吸」はフィクションの中だけの奇想天外な技ではなく、科学が認めつつある脳と体を繋ぐ自然のメカニズムなのかもしれません。
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元論文
Global coordination of brain activity by the breathing cycle
https://doi.org/10.1038/s41583-025-00920-7
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。