しかもその効果は種を超えて普遍的です。

ヒトを含む様々な哺乳類で、呼吸のリズムに同期した神経活動が観察されており、それは延髄など呼吸中枢や嗅覚系だけでなく、情動や認知を担う高次の脳領域にも及んでいます。

呼吸が速くなれば脳も広範に速いリズミックな活性化が起こり、呼吸がゆっくりになれば脳波も落ち着く――そんな全身的なリンクが、生物に共通する基本原理として存在しているようなのです。

“脳メトロノーム”としての呼吸——応用は瞑想から仕事術まで

“脳メトロノーム”としての呼吸——応用は瞑想から仕事術まで
“脳メトロノーム”としての呼吸——応用は瞑想から仕事術まで / Credit:clip studio . 川勝康弘

呼吸によって引き起こされるこの「脳のグローバル同期現象」は、どのような意義を持つのでしょうか。

筆者らは論文内で、「吸う・吐く」という呼吸のリズムが進化を通じて脳内ネットワークの機能を形作ってきた可能性に言及しています。

呼吸は生命維持に不可欠な根源的リズムであり、種を超えて存在する現象です。

そのリズムが全身に影響を及ぼすよう生物は設計されてきたと考えれば、脳も例外ではありません。

呼吸によるリズム信号は、全脳に一種のタイミング基準(グローバルな拍子)を与えることで、各部位の活動を協調させる役割を果たしているのかもしれません。

例えば、危険を察知して呼吸が荒く速くなれば、脳の複数領域が同じ速いテンポで連動して働き、瞬時に戦闘モードへと切り替わる。

一方、安静時にはゆっくりした呼吸が脳全体を落ち着いたペースに揃え、記憶の整理や休息に適した状態を作り出す、といった具合です。

この仮説は、呼吸が感情や認知に与える影響とも合致します。

総説によれば、呼吸と脳機能の関連を突き止めるエビデンスは既に数多く揃っていますが、「それが行動や認知、情動のどのような変化につながるのか解明することが今後の課題だ」と著者のトート博士も述べています。

しかし一方で、応用の可能性も見えてきました。