まだ詳細は分かっていないものの、「短い時間でも質の高い睡眠を得る」文化的習慣や身体的適応が存在するのかもしれません。

他にも考えられる理由として心理的な要因と社会的なリズム要因の両面が考えられます。

まず心理的側面では、周囲の人々と同じくらい眠れていれば「ちゃんと休めている」という安心感や満足感につながり、逆に自分だけ睡眠不足だったり寝過ぎだったりすると罪悪感や不安を感じることがストレスとなる可能性があります。

実際、「社会の規範に沿った振る舞いをしているとき、人はより健康だと感じやすい」という指摘もあります。

次に社会的リズムの側面では、極端な短眠や長眠によって生活リズムが周囲とズレると、たとえば通勤・通学や勤務時間といった日常のスケジュールに支障をきたし、そのミスマッチがストレスや健康悪化を招きうるでしょう。

現代社会では公共交通機関の動く時間帯や職場の始業時間など、何かと「みんなが起きていること」を前提に生活環境が整えられています。

自分だけ睡眠習慣が周囲と大きくずれていると、社会生活で追加の困難や負担が生じるのは容易に想像できます。

一方で、今回の研究が示したように人々の睡眠パターンはどの国でも理想より短めであることから、文化に適応するといっても現実には全体的な睡眠不足が広がっている可能性があります。

これは裏を返せば、世界的に見て睡眠をもう少し増やす余地(=健康を向上させる余地)があることを意味しており、公衆衛生の観点から重要な示唆と言えます。

今回の成果は、文化という視点を取り入れることで睡眠と健康の関係に新たな光を当てました。

従来は個人単位で「○時間眠る人は病気になりにくい」などと言われてきましたが、そうした知見をそのまま国同士で比べると当てはまらないケースがある(=国レベルの平均値から安易に結論を出すのは誤り)ことも示されています。

これからは各地域の文化や生活実態に合わせて、柔軟で多様性のある健康ガイドラインを考案していく必要があるでしょう。