ただ不幸なことに「公共財」の一部である「介護保険」は、その時代から30年後の2025年ではもはや解体に直面する事態を迎えている。

倒産・休廃業・解散した「介護事業所」の増加

図3は2024年までの5か年で、倒産・休廃業・解散した「介護事業所」の総数である。毎年平均で600程度の事業所が撤退していて、24年では784事業所に増加した。これでは団塊世代全員が後期高齢者になった25年以降では要介護者も増えることから、「すべての高齢者は救えない」とした雑誌特集の説得力が増すであろう。

図3  介護事業所の倒産件数 (出典)『週刊 東洋経済』第7228号(2025年4月19日号)

それは図4に象徴されているように、「要介護認定者の増加」に「訪問介護職員数」が追いつけない状況が日常化してきたからである。

具体的にいえば、23年度の「訪問介護職員数」は2000年4月からの歴史で初めて減少に転じた。そのせいもあり、ケア・マネージャーからの紹介があっても、「人手不足」の理由により事業所がその「訪問介護」を断る事例が出てきたのである。そのうえ「要介護度」が低ければ、事業所にとってそれは「不採算事業」でしかない。

図4  介護職員数と要介護認定者数の推移 (出典)『週刊 東洋経済』第7228号(2025年4月19日号)

さらに「訪問介護職員不足が及ぼす影響」として、「利用者の受け入れ抑制」、「勤務時間の長さ」、「業務負担の重さ」、「介護の質の低下」などが指摘されるようになって、「訪問介護事業」の「崩壊」可能性まで論じられている(週刊 東洋経済編集部、2025:39)。

書名へのこだわり

3年間の北海道での「介護保険導入時点のモデル事業」の経験、それに少子化対応としての「子育て共同参画社会」を追加することで、本書全体が完成した。

全体的には高齢化関連が8割程度なので、『高齢社会と福祉資源』というような書名を考えていたが、向坂編集長は「NHKブックス」がもつ「時代の半歩先を読む」という理念からも、「高齢化」も「少子化」も読者としての「あなた」の問題だから、『高齢社会とあなた』を強く主張された。

社会的ジレンマ論の応用