ドイツ国民がこれだけの負担をいとわずに温暖化対策を進めれば、確かにドイツのCO2排出量は大幅に削減できるかもしれない。しかし地球温暖化の抑止効果は一国・一地域の排出削減で発現するものではない。
パリ協定のもとで各国が宣言している削減目標(NDC)によると、世界最大の排出国は中国であり(年間排出量約110億トン)、世界全体の排出量の3割を占める中で中国は「2030年までに排出量の増加を止める」と宣言しているので、それまでは排出量は減少しないらしい。世界4位の排出国インドは、過去10年間で5億トン以上排出量を増やしていて、経済成長を最優先に掲げる同国でこれも2030年までに減少トレンドに入る見込みはない※5)。
こうした現実世界の趨勢を見たとき、ドイツ人が現行教会税を上回る「気候変動教会税」を負担して果敢に排出削減を進めたとしても、ドイツの年間CO2排出量である約6.5億トンは、向こう数年は減らないとされる中国の年間総排出量110億トンのたった6%に過ぎず、せいぜいインドが過去10年間に「増加させた排出量」と同等の水準にすぎないのである。
つまりドイツ国民がこの「気候変動教会税」を負担することで「地球が救われる」、つまり地球温暖化が回避・抑制され、その結果異常気象や天災なくなるという「御利益」を期待しているとしたら、それを2030年に実感できる可能性はほぼ「無い」といっても過言ではないだろう。
ヨーロッパ文明の長い歴史に根付き、信仰によって神の恩寵を授かり、死後の「最後の審判」で天国に行く道が保証されてきたキリスト教の信仰を捨てて教会税を払わなくなった現代社会のドイツ国民が、果たして新たな「天国」を掲げて支払いを求められるこの「気候変動教会税」を、その成果も実感できないという現実の中、ご利益を信じて払い続けることを期待できるのだろうか?
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※1)以上の教会税の負担に関する分析は杉山大志氏がChatGPTを使って調査した結果の数字を使わせていただいている。 ※2)Net Zero by 2050; A Roadmap for the Global Energy Sector” IEA (2021) ※3)EVやヒートポンプ導入には政府の補助金が期待できるかもしれないが、その財源はまわりまわって国民の税金から賄われることになるので負担増につながる。 ※4)冒頭に紹介した川口さんの記事では衰退するキリスト教の代替物として左翼政治イデオロギーの躍進が指摘されているが、気候変動を教義とした代替宗教が掲げる「正義」はまさに左翼政治イデオロギーと共鳴しているといえる。 ※5)政府が見せない中国とインドは脱炭素していない図を公開します(杉山 大志)