ドイツではカトリック教会、福音主義(プロテスタント)教会、復古カトリック教会、ユダヤ教徒のいずれかであることを住民票に登録した国民に対して、所得税の8~9%(地域によって異なる)の教会税が課されている。この教会税がドイツ国内の教会の運営や歴史的なカテドラルの修復費用などに必要な資金の半分近くを支えているという。その2023年の総額はカトリック教会で65億ユーロ、プロテスタント教会で59億ユーロにのぼり、合わせると2兆円規模に上っていることである。

それが川口さんも指摘されているように、近年ドイツでは教会からの離脱者が増えており、2022年だけでも52万人、23年も40万人が脱会(=棄教)しているということである。確かに所得税の8~9%が追加で課されるとなるとバカにならない出費なので、もともと教会に通う人が減少している中、不景気が続くドイツで脱キリスト教宣言をする人が増えるのもやむを得ないのかとも思う。

もっとも、詳しく調べるとこの教会税は所得税の算定時に全額が所得控除されるということなので、実際の所得税額の上乗せ分は約6%程度にとどまり、平均的なドイツ人の場合、実質で年間所得の1%程度を教会税として負担するという見合いになるようである※1)。

年間所得が45,000ユーロの平均的な人の場合、信仰するキリスト教会の運営・維持のために年間約450ユーロ(約7万円、月額6千円)を、この教会税を通じて教会に寄進していることになるのだが(実際に教会に寄進されるのは政府負担となる所得税控除分が上乗せされるのでもっと大きくなる)、これを払いたくないために教会から脱会して、非キリスト教徒となったことを申告するドイツ人が増えているというわけである。

教会税を回避するためにキリスト教から離れたドイツ人は、それによって教会で結婚式や葬式を挙げることができなくなり、子供が生まれても洗礼を受けて祝福を受けられなくなる。そうした「神の恩寵」を受けるために月々6,000円を負担することを忌避する風潮がドイツ社会に広がってきているのだとすると、そうした人たちが果たして気候変動対策で今後確実に増えていくカーボンプライスを負担することを受け入れるだろうか?という疑問がわいてくる。