確かに、今のAIは2000年代とは異なり自律型であるため、仕事に大きな影響を与えるだろう。しかし、コストやソフトウェア面を考慮すると、全ての人間の労働がゼロになるというのは現実的ではないと考える。

ここまでの状況を踏まえると、現時点の高齢者が老後の引退生活を送ることと、10年後、20年後に同じことをするのとでは、難易度が全く異なるとわかる。「日本人なら全員が定年退職後、働かずに穏やかに隠居生活を送る」という想定はしない方が賢明だろう。

海外も日本と同じ状況

ここまでの話を聞くと、「日本は最悪だ」と悲観的な気持ちになる人もいるかもしれない。だが、これは正しい認識ではない。新興国はもちろん、他の先進国も同様の状況に直面しているからだ。

世界一の経済大国であるアメリカでも、年金だけで老後を過ごせる人は少ない。SMBC日興証券の調査(2021年)によると、日本の変額年金への関心度が52%であるのに対し、アメリカでは80%の人が変額年金に関心を示しており、自助努力への意識の高さがうかがえる。

また、デロイトの2015年の調査では、55歳以上の世帯で金融資産(固定資産・年金を除く)が25万ドル以上あるのは4分の1未満と報告されており、経済的な蓄えが不十分な高齢者が多いことが示されている。

さらに米国労働統計局(BLS)のデータでは、アメリカにおける65歳以上の就業率は増加傾向にあり、1987年の11.1%から2023年には19.0%に上昇している。公的年金受給開始年齢の62歳や公的医療保険の対象となる65歳を超えても働き続ける高齢者が増えているのだ。

アメリカだけではない。ヨーロッパの事情も同様だ。欧州各国では、少子高齢化に伴う年金財政の維持のため、年金支給開始年齢の引き上げが進められている。

例えばドイツでは、2012年以降、公的年金の支給開始年齢が従来の65歳から段階的に引き上げられ、2031年初めまでに標準定年年齢が67歳になる予定だ。イギリスでは2007年の年金法で68歳まで引き上げが決定。フランスでも満額年金の開始年齢が65歳から67歳に段階的に引き上げられている。