興味深いことに、こうした「宇宙のパッチワーク」による平均化が何でもかんでも可能というわけではないことも明らかになりました。

研究チームは解析の中で、ある種の物理量についてはワームホールを用いた統計平均には乗らない(再現されない)ことを示しています。

その代表例が g 関数(境界エントロピー)と呼ばれる量で、これは境界の自由度の大きさを表す指標ですが、g 関数はワームホールを繋いでも変動せず一定のままでした。

言い換えれば、ワームホールを駆使しても各宇宙の境界が持つ個性(エントロピー)は消えず、重力による平均化には限界があることを示唆しています。

実際、この g 関数の振る舞いについて重力側と境界付き共形場理論側で完全に一致する依存関係が確認されており、これはブレーン(境界)の持つトポロジー(位相的性質)によって説明できます。

ブレーンに張力を加えると空間に楔形の領域が増減して幾何学が変化しますが、そのとき重力作用(アクション)の変化はブレーンの位相的な特徴(穴の数や繋がり方)によって決まり、形状の細部には依存しないというトポロジカルな関係が見いだされました。

この性質のおかげで三次元重力側と二次元の境界付き共形場理論側の g 関数が一致し、さらにこのことから「シュレンカー=ウィッテンの定理」と呼ばれる重力理論の有名な主張に対応する結果(その境界付き場の理論版)が自然に導かれるとも述べられています。

シュレンカー=ウィッテンの定理とは「ブラックホール閾値以下の状態には統計平均は効かない」という内容のもので、今回の結果はその境界付き場の理論版に相当します。

つまり、境界の寄与に関しては平均化ができず、個々の理論で不変な量が存在するという深い洞察を与えてくれます。

本研究で提案された“宇宙を縫い合わせる”アプローチは、量子重力理論と場の理論の幾何学的な調和を象徴するものです。

一見奇抜に思えるワームホールによる宇宙のパッチワークですが、そこから読み取れる物理は従来の数理解析としっかり符合しており、難解だった計算を幾何学から解釈する道を拓きました。