例えば、ブラックホールの情報問題に関連して、ある重力モデルのワームホール寄与が場の理論側の多数の状態の平均と対応する、といった研究が注目を集めています。

今回の研究チームは、この「ワームホール=多数の量子系の平均」というパラダイムを境界付きの場の理論に拡張できるかを探ることを目的としました。

言い換えれば、複数のミニ宇宙をワームホールで繋いだら、各宇宙の境界に対応するBCFTの振る舞いを一度に平均的に読み解けるのではないか――この大胆な問いに取り組んだのです。

ワームホールで宇宙を縫い合わせる新理論から量子論が自然に浮かび上がる

ワームホールで宇宙を縫い合わせる新理論から量子論が自然に浮かび上がる
ワームホールで宇宙を縫い合わせる新理論から量子論が自然に浮かび上がる / Credit:Canva

研究チームはまず、三次元の重力理論モデルの中に「ミニ宇宙」を作り出し、それらをワームホールで繋ぐ理論的実験を行いました。

重力側の舞台は反ドジッター時空で、そこに次のような要素を導入しています。

円錐欠陥は、三次元空間内に存在する点状の重い粒子が作り出す円錐形の歪みで、境界付き共形場理論における内部演算子同士を繋ぐ役割に相当します。

エンド・オブ・ザ・ワールドブレーン(EOWブレーン)は、三次元空間がそこで途切れる境界となる膜状の「壁」で、張力がある場合と無い場合の両ケースが考えられ、境界付き共形場理論では同一の境界条件を持つ複数の端点同士を繋ぐ役割を果たします。

キンクは、EOWブレーン上に生じる一次元の欠陥で、ブレーンに角張った折れ目やひずみがある部分であり、境界付き共形場理論では境界上の演算子同士を結び付けるものに対応します。

パンクチャーは点状の欠陥で、円錐欠陥がEOWブレーンに突き当たって終わる位置にあたり、裁縫で言えば針が布に刺さる点に相当し、ブレーン(布)と円錐欠陥(糸)の接点となります。

簡単に言えば、ワームホールという「時空のトンネル」を使って、いわば針と糸で布を縫い合わせるように、二つの小さな三次元宇宙をくっつけるわけです。