しかし非B型を形成しやすい配列の多くは繰り返しを含むため、短い断片しか読めない旧来の技術では正確な全容把握が困難でした。

そこで今回、アメリカのペンシルベニア州立大学のカテリーナ・マコヴァ教授(生物学)ら研究チームは、T2T技術で得られた類人猿ゲノムを用いてノンB DNA構造を網羅的に探し出すことに挑みました。

完全長のゲノム配列を比較することで、非B型の進化上の役割や、生物種ごとの特徴を明らかにすることがこの研究の目的です。

二重らせんを超えた裏世界へようこそ

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ヒト、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、そしてスマトラとボルネオの二つのオランウータンという六つの大型類人猿に非B型DNAがみつかりました/Credit: Dani Zemba and Makova laboratory, Penn State

マコヴァ教授らのチームは、完全長まで読み解かれたヒトおよび6種の大型類人猿のゲノム(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、スマトラオランウータン、ボルネオオランウータン)に加え、比較対象として小型類人猿シアマン(フクロテナガザル)のゲノムを分析しました。

それぞれのゲノム配列上で、ヘアピンやZ-DNA、G-四重鎖など、非B型 DNAを形成しうる特徴的な配列モチーフをコンピューターで網羅的に検索したのです。

すると、これまで解読が難しかった繰り返し配列を含む領域に、まさにそうしたモチーフが数多く埋め込まれていることがわかりました。

特に、染色体の端のテロメアや、細胞分裂時に染色体を正しく分配するためのセントロメア周辺で、非B型DNAの存在が顕著でした。

(※セントロメアやテロメアなど、染色体の安定と細胞分裂を司る領域に non-B モチーフが集中しており、立体構造が“足場”や“ふた”の役目を果たしている可能性が高いと考えられています。また転写因子の結合をオン・オフする“物理的トグル”として働いたり、DNA複製のスターターとする考えもあります)