このような実態を踏まえると、イギリスが石炭火力の廃止を宣言しても、大きな影響を受けるわけではなく、政治的アピールにすぎないという点も理解できるのではないでしょうか。

まとめ

NetZero先進国と称されるデンマークやイギリスは、自国の電力需要を完全に自国内の発電だけでまかなう能力を持っていません。ドイツも、年間の総発電量としては国内需要をカバーできる可能性はありますが、時系列で見ると需要と供給のアンバランスが非常に大きく、自国内だけで安定的に需給バランスを取ることは困難です。

一方、イタリアは再生可能エネルギーによる余剰電力が発生する時間帯に、他国から安価な電力を輸入し、自国のLNG火力の出力を調整することで、効率的に電力コストを下げています。言わば“電力の世渡り上手”です。

ここで「日本もLNGや石炭などのエネルギー原料を輸入しているのだから、ヨーロッパと同じではないか?」という疑問を持つ方がいるかもしれません。しかし、それはまったく異なります。

日本は石油を約200日分、石炭を約2か月分、LNGを約2週間分備蓄しています。また、これらの輸入先は中東など一部の地域に偏っておらず、調達先の多様化も進められています。

しかし電気は違います。輸入が止まれば即座に停電します。需給バランスが大きく崩れれば、瞬時に広域停電が発生しかねないことは、2025年4月に起きたスペインの大規模停電が示したとおりです。

このように、日本とヨーロッパではエネルギー供給体制の前提が大きく異なります。「ヨーロッパでできているのに、日本はなぜできないのか?」という議論は、前提条件の違いを無視したものであり、そろそろ終わりにすべきではないでしょうか。