たった数カ所のDNA塩基変化がこのような発生過程と神経ネットワークの構築に大きな影響を及ぼしうることは驚きです。

実際、本研究で対象となったHARE5はヒトとチンパンジーの間でわずか4カ所の違いしかありませんでした。

それにもかかわらず、このわずかな変異がニューロンを生み出すシグナル経路の制御バランスを変え、脳のサイズや回路網の特性を大きく変えていたのです。

言い換えれば、ゲノムのごく微小な変化が人類の卓越した脳の進化を可能にした基盤の一部だったのかもしれません。

もっとも、ヒトの脳進化というパズルがこれですべて解明されたわけではありません。

他にも数千に及ぶHARが存在し、それらが脳や認知機能の発達に寄与している可能性があります。

デューク大学のデブラ・シルバー博士(本研究の責任著者)は「人間の脳を現在のような人間の脳たらしめている仕組みは、実に多岐にわたります」と強調し、HARE5はその一部に過ぎないと指摘します。

研究チームは今後、HARE5以外のHARも含めた包括的な解析を進め、ヒト特異的なDNA上の変化がどのように相互作用して人間の脳を形作ったのかを明らかにしたいとしています。

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元論文

A human-specific enhancer fine-tunes radial glia potency and corticogenesis
https://doi.org/10.1101/2024.04.10.588953

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部