このためHARの変化が人間の脳を進化させた手がかりではないかと期待されています。

(※これまでにもヒト固有の遺伝子をサルなどの動物に組み込むことで脳を巨大化できることが示されてきました。)

ヒトの脳を進化させた「知恵の実」遺伝子が、サルの脳を巨大化させると判明

今回注目されたのは、ヒト加速進化領域(HAR)の一つであるHARE5というDNA領域です。

HARE5は染色体10上にある619塩基対の配列で、その中の4カ所がヒトでのみ変異していることが知られています。

HARE5は脳の発生に重要なWntシグナル経路の受容体FZD8遺伝子のエンハンサーとして機能し、マウス胚で神経細胞の産生を促進することが以前の研究で示唆されていました。

しかしヒト型HARE5が具体的にどのように脳の成長に影響するかはまだ分かっていません。

そこで本研究では、ゲノム編集技術を用いてマウスのHARE5領域をヒト型配列に置き換え、その効果を詳しく調べました。

4文字の置き換えでマウス脳が巨大化

4文字の置き換えでマウス脳が巨大化
4文字の置き換えでマウス脳が巨大化 / Credit:Canva

調査にあたって研究チームはまず、マウスの胚のゲノム中に、人間のヒト加速進化領域(HAR)の1つであるHARE5配列を組み込んだマウスを作製しました。

そして生まれた改変マウスを育てて観察すると、ヒト型HARE5を持つマウスは通常のマウスに比べて脳(大脳皮質)が平均で6.5%ほど大型化していることが分かりました。

特に脳の最も外側の層(新皮質)の体積が増加し、神経幹細胞である放射状グリア細胞(ラジアルグリア)の増殖が著しく活発化していました。

遺伝子解析の結果、ヒト型HARE5とチンパンジー型HARE5のわずかな配列差(4カ所の塩基変異:1文字変化が4カ所ある)のうち、特に最初の2つがエンハンサー活性を大きく高めていることも突き止められています。

なお、脳が大きくなった改変マウスで学習能力や記憶力が向上したかどうかについては、現時点では明らかになっていません。