森林の伐採は、環境破壊のように見えるが、実はそうではない。伐採により、森林内の過密状況が解消され、地表に日光が届き、若い木が育つ。伐採した木材の販売益で、新たな木を植えることもできる。林野庁はこれを「伐って、使って、植えて、育てる」資源の循環利用としている。

伐採した木は、燃やしたり腐敗させたりすると、炭素を排出してしまう。よって、「木材」として活用することが望ましい。だが、木材の主要市場である住宅市場は縮小傾向にある。

そこで、非住宅分野に「国産木材の利用」を促すべく制定したのが「木材利用促進法※1)」である。とはいえ、WTOが定める内外無差別の原則(※)があるため、「国産木材利用」を法律で義務づけることはできない。

※ 内外無差別の原則:輸入品に適用される待遇は(関税を除き)同種の国内産品に対するものと差別的であってはならないという原則

そこで登場するのが「隈研吾氏」である。

地元産の木材を多用する世界的建築家。手掛けた庁舎、美術館・博物館など建築物は、注目度が高く、メディアにも取り上げられやすい。「国産木材利用」の気運を高めるインフルエンサーとしてはうってつけだ。

かくして、隈氏は、各省庁で語ることになる。

農林水産省(林野庁)の「はじめよう中大規模木造(ハンドブック)」では、木造建築の長寿命化を。国土交通省の発信メディア「Grasp」では、木の時代への回帰を。文部科学省主催の「建築文化に関する検討会議」では、木など自然素材が使いにくい現状を。

隈研吾氏左:林野庁「はじめよう中大規模木造(ハンドブック)」、右上:文化庁公式X、右下:国土交通省「Grasp」より