はじめに
シンポジウムに参加できなかった人にも当日の出来事を伝えよう。このように考えながら、私は富山市へ向かった。
だが、シンポジウムを終えて帰路に着くため富山駅で新幹線の到着を待っているとき、「まず『月刊正論』6月号に掲載された、世界平和統一家庭連合田中富広会長インタビューの裏話から始めないと、真意を理解してもらえないかもしれない」と感じた。なぜなら会場にいたメディア関係者ですら、あれもこれも知らないまま取材していたように思えたからだ。
私は安倍晋三氏暗殺事件以後、旧統一教会糾弾の流れを追い、信徒たちの実情を取材して、教団が「やったこと」と「やられたこと」がありのままに社会へ伝えられていないのを痛感した。
そこで教団側へ、「洗いざらい言いたいことを話しつつ、同時に説明してこなかったことや、触れられたくないことも明らかにすべきではないか」と伝えて実現したのが、田中富広会長インタビューだった。私と『正論』が行なった作業は、教団糾弾報道を始める前に全マスコミがやっておかなければならないものだったのだ。
ただし掲載面を12ページ確保したにもかかわらず、田中会長が語った内容と、説明に含まれる微妙なニュアンスをすべて紹介できなかった。なぜなら、これまで報道が多くの事実や出来事を無視してきたので、あらゆるテーマに対して前提となる説明が欠かせなかったからだ。マスコミは暗殺事件と教団を結びつけるため、教団と信徒をほぼ何も取材しないまま、彼らからの事情説明を嘘と決めつけて、教団糾弾を始めたのである。