そこで社会学的には高齢者を「役割縮小過程」と理解する。そうすれば、この認識から高齢者対策は年金、医療費、介護などの福祉面での支援を越えて、「役割回復」を基軸とすることになり、これまでの社会福祉領域からのサービス提供とは異質の論点が浮上する。「地域福祉学」でも「社会福祉学」でもないタイトルの「地域福祉社会学」には、この秘めた狙いがあった。

限界役割効用を活用する

そのために「限界役割効用」という専門用語を造語した(金子、1993:61)。これは地域福祉の調査で特に町内会長とインタビューを繰り返した際に気がついた概念であり、経済学では周知の「限界効用」(marginal utility)を下敷きにしている。

経済学の「限界効用」とは、ある財の消費量、たとえばボールペンを増やすとき、一本増えるたびに得られる満足度すなわち効用が減少するという法則を応用したものである。具体的にはボールペンの持ち合わせがなければ、筆記の際に最初の1本の効用は天文学的に高いが、2本目からのそれは次第に乏しくなり、5本にもなれば効用を特に感じなくなる。

「役割」が多すぎて、「効用」を感じない人もいた

人の場合はやや事情が違うことを承知したうえで、「役割縮小過程の存在」になった高齢者が、たとえば町内会の班長という新しい役割を手にした時に感じる大きな効用と、次第に役割が増えて、5つ目あたりからはそれほどその役割に効用を感じないという調査体験から作り上げた概念である。

実際の経験でも、ある政党の支部長、シルバー人材センター運営委員、町内会長、市役所の地域福祉審議会の委員、出身高校の同窓会の幹事、元の職場の同期会会長などを引き受け続けて、忙しさが先に立ち、「効用」などとは縁遠いと話された町内会長がおられた。

生きがいに役割理論を応用する

しかし、いくつかの役割活動は生きがいを得るための条件にもなるので、それを10か条に整理しておいた(金子、1997:46)。