ここにいう「地位とは、特定の諸個人が占める社会体系内の地位を意味し、役割とは、かかる地位に属する型式化された期待を行動的に演ずることを意味する」(同上:334)であり、各方面でこの定義が活用されてきた。
ただし、階層が規定する地位と地域社会での地位とが同じ重さにはなりえない。そのために個人はいくつかの地位に伴う役割葛藤を経験することになる。たとえば、会社の課長という地位は、小学校での運動会では単なる生徒の保護者という地位とは無縁であり、課長としての所得や資産の高低は必ずしも町内会の序列には連動しない。
固定役割としての人類役割と家族役割
そこで本書では、様々な地位をもつ個人の側から見て、私なりの独自の見解として、地位に基づく役割は四種類に大別できるとした。一つには人類の一員としての「人類役割」があり、平和や安全の維持確保それに地球環境の維持に関する行動を含んでいる。それは、古今東西の老若男女全てが担うことになり、図1には登場しない。

図1 3つの個人役割とバックアップシステム(出典)金子、1997:45.
しかし家族の中で誕生する人間は幼いころから固定した「家族役割」をもつ。それは次第に年齢とともに増えていくが、子どもとしての役割、親としての役割、高齢者としての役割などに拡散する。その意味で、図1で示した「固定役割」は家族に関連する。
さらに多くの場合、親の世代は町内会などの「地域役割」、職業関連のたくさんの「職場役割」も合わせ持つようになる。このうち「職場役割」は退職とともに消失するが、「家族役割」はいつまでも残り、子どもの就学、卒業、就職、結婚などの場面で発揮され続ける。そして子どもの他出や本人の配偶者の死などにより徐々に失なわれる。
高齢者は「役割縮小過程」の存在
だから「人類役割」は普遍的としても、高齢者になれば、「家族役割」、「職場役割」、「地域役割」のすべてで縮小ないしは喪失してしまう。