その「リアリティ」は現実の正確な「観察」と収集データから得られる。一方では、500票の調査票を配布して回収し、統計学的裏付けを確認しながら、パソコンでそのデータ分析を行うやり方がある。しかしこれだけでは細かな「観察」ができないので、事例研究として特定の対象者を選び、少し長いインタビューを実施して、後からその記録を作成してデータ化する。
この方法論上の問題を本書の「序章」でまとめていたので、それを紹介しておこう。なぜなら、本書を構想した際に使おうとした論文のテーマは、「人生の達人」調査による高齢者の生きがい、地域福祉、高齢者の人間像、コミュニティ・ケアの実態、そして台湾・台北調査の結果の分析などであり、ほぼ全てが調査データを使った論考であったからである。
社会学研究の「8原則」
そのために「序章」で、北大10年間の社会調査の経験から導きだした社会学研究の「8原則」を示していた。
原則1:取り上げるテーマに社会的意義と重要性があるか 原則2:そのテーマが広範な関心をよべるか 原則3:新しい命題を創造できるか 原則4:文献レビューの質は高いか 原則5:操作概念化が適切か 原則6:操作概念と収集したデータは整合しているか 原則7:データ分析の方法は正確か 原則8:研究方法が明確化されていて、追試が可能か
全編でこの通りに行えたわけではないが、計量データでも事例研究法でも調査データを分析する際にはこれらを備忘録としておきたいという心構えであった。
人間を役割から見る
一方で、高齢者を「地域福祉」論で扱うのだから、理論的には「高齢者は役割縮小過程の存在」を大前提の仮説にした。一般に役割は必ず社会的地位に関連しており、両者が揃って社会構造を作り上げるからである。
社会構造の下位カテゴリーには縦の関係にある権力と階層、横の関係にある地域と集団が存在する。そしてすべての老若男女には個人としてこれら両方の地位をもつ。