北大に勤務してからちょうど10年が経過しており、それまでに何回か『北海道新聞』にも寄稿していた縁もあって、訪ねてこられたのである。

「3度目のハタチを生きる」ための本

当時、松下国際財団からの台湾研究は継続していたが、国内向けの科学研究費が切れており、回収ベースで500人の調査データを分析できることへの魅力もあり、快諾した。主な仕事は調査票の設計、データ分析の基本方針の確定、数名の元新聞記者による報告書全文の監修、そしてまとめとしてのEpilogueの執筆であった。これにも縁と運の両方を感じた。

とりわけベテランの新聞記者による読ませる記事ばかりであり、日頃は学術的な論文を書くことに拘ってきた身にとってもグラフや図表というビジュアルな手段を駆使した表現に学ぶことが多かった。

たとえば、主題とした「人生の達人」(エキスパート)は調査データの組合せにより表1のよう類型化した。

表1 人生の達人の類型(出典)金子、1997:37.

予想通りというべきか、それほど積極的な高齢人生を謳歌する比率は高くなかったが、「無事是好日派」が44%で、「気さくに日常世話役派」が22%となり、両者合わせて66%が平均的な高齢者人生を過ごしていることが分かった。

さらに作田氏の新聞社時代の縁により、税込み2980円の本書(250頁)は北海道内の多くの企業に販売できて、たちまち初版が売り切れたのである。販売方法で一番感心したのは、ホテルのロビーや各部屋に置いてもらうという戦略であった。

このように国内でも調査データを使って、報告書作成を手伝っていたので、この2年間は実証研究に特化していたことになる。

“Sociology = IBM Plus Reality Plus Humanism”

社会学は「人間の共同生活の科学」であり、それは人間面、共同生活面、科学面の三方向に枝分かれする宿命を持っている。

ミルズの1954年論文“Sociology = IBM Plus Reality Plus Humanism”は第1回に紹介したが、「リアリティ」の具体的指標として、人間面を関係における役割セット(role-set)で理解するのが社会学の個性である(マートン、1957=1961:335)。

社会調査のために留意しておきたいこと