そして学会賞を受賞してから翌年の学会大会でお会いした際に、「まとまった原稿が書けたら、いつでも送ってください。編集部で読んで、可能であれば出版します。」というようなご意思を伺った。これには感激して、その後の単著出版の7割程度をお願いするきっかけになった。

『地域福祉社会学』への途

本書『地域福祉社会学』(1997)はその第1冊目である。前回の『高齢社会・何がどう変わるか』(1995)の準備過程で収集した台湾・台北市での公的データと、その後に数回出かけて実施したオリジナルのインタビュー調査結果が合わせてほぼ3章分になっていた。その一部は社会保障研究所『海外社会保障情報』第114号(1996)などに寄稿していたが、残りは未発表のままであった。

もう一方で、日本国内では事例研究法として「役割理論」に基づいた高齢者論を開始していて、そのライフスタイルに関する高齢者へのインタビュー記録が少しずつ蓄積し始めていた。調査票結果の計量分析では出てこない貴重な体験が聞けるし、そこから「人生の達人」のイメージが膨らむからでもあった。

『人生の達人』の企画と監修

「人生の達人」とは「高齢のエキスパート」を意味するとした造語である。これは北海道新聞社を副社長で定年退職した作田和幸氏が、あらたに(株)CWEを設立されて、その最初の事業のキーワードに位置づけられた。CWEとはChildren,Women,Elderly Peopleの頭文字であり、俗にいえば「子ども、女、年寄り」である。

しかし作田氏は、これからの時代にはこの三者こそが時代を切り開くことを長年のマスコミ人としての経験と直感で確信しておられて、その第1号の事業としてまずは高齢者(Elderly People)に焦点を当て、具体的には札幌在住の中高齢者500人のライフスタイルと意識構造を解明して、今後の高齢社会づくりの参考になるような出版をしたいという希望を私の研究室で熱く語られた。