結果、超遺伝子内部は継続的に突然変異を蓄積し続けることなってしまいます。
そのため超遺伝子を持つ種では、種内でも個体ごとの差が大きくなっていきます。
その代表的な例が、エリマキシギです。

エリマキシギの遺伝子は380万年前に発生した超遺伝子のせいで同じ種であっても差が大きくなり、同じエリマキシギのオスでも3種類の異なる外見を持つに至りました。
さらに3種類のオスは発情期の行動も、それぞれ異なったものになっています。
簡単に言えば超遺伝子は1つの種に3種類のオスがいる状況を作り出したのです。
生命の存続において遺伝子の多様性は極めて重要です。
そのため種内多様性の創出は超遺伝子による副作用が有利に働く例と言えるでしょう。
しかし変異の蓄積は常にいいものになるとは限りません。
超遺伝子の中で起こった変異が、生命の維持に必須な遺伝子の破壊という形で起きてしまった場合、修復困難な致死性遺伝子を持ち続けることに繋がるからです。
クシイモリの超遺伝子部分に起きた変異がまさにソレでした。
クシイモリは超遺伝子による遺伝子の囲い込みという短期的な利益の罠にはまったせいで、産んだ卵の半分が常に死ぬという長期的な不利益を被ることになったのです。
同様の悲劇はクシイモリ以外の種でも起きています。
これまでクシイモリのような致死的システムを持つ生物がいくつか発見されてきましたが、その全てが超遺伝子の存在が原因となっていました。
研究者たちクシイモリのような生物は、進化上の短期的な利益を得るために後戻りできない長期的な不利益がもたらされる「進化の罠」にはまっている、と述べています。
ネズミとりの罠や食虫植物では、エサや蜜という短期的な利益のために、ネズミや虫たちに生命の損失という不利益がもたらされますが、同じような仕組みが遺伝子の世界にも存在しているのは、非常に興味深いと言えるでしょう。