しかし、この奇妙な現象が最初に確認された1821年から現在に至るまでクシイモリが「無駄な卵」を相変わらず産み続けています。
多くの生物学者がこの不思議な現象に何らかのメリットを見出そうと多くの仮説を提唱しましたが、どの仮説もデメリットを補うメリットを見つけられませんでした。
ただ、なぜ半分の卵が死んでしまうのか、その死をもたらす仕組みは解明できています。
クシイモリの卵の半分が死んでしまう理由

クシイモリの半分の卵が死んでしまう原因は、遺伝子に刻まれた致命的欠陥にあります。
これまでの研究により、死んでしまった卵では第1染色体が異常に長くなっていたことがわかりました。
この長い染色体は「1A」と呼ばれるようになります。
またその後の分析により、長い染色体1Aは生存に必要な遺伝子に致命的な欠陥を含んでいることが判明します。
クシイモリのゲノムは人間と同じく2セットあるため、細胞の中には2本の第1染色体が詰め込まれることになります。
このとき運悪く2本とも欠陥を抱えた長い第1染色体「1A」だった場合、卵は生存することができずに死んでしまいます。

この状況を例えるならば、上の図のような橋を支える丸太となります。
端を支える2本の丸太のうち両方の丸太が同じ場所に切れ目があれば、前後が縄で結ばれていても橋は落ちてしまいます。
しかしもう一方の丸太が完全ならば、切れ目部分を補って橋として機能できます。
しかし驚くべきことに、クシイモリのもう一本の短いほうの第1染色体(1Bと呼ばれる)にも1Aとはまた異なる部位に致命的な欠陥が含まれていることが判明します。