こうした慢性的な不調は筋肉や関節だけでなく、自律神経の乱れも引き起こしやすくなります。
長時間同じ姿勢での筋肉や背骨への負荷が増加し、交感神経と副交感神経のバランスが崩れやすくなり、ストレス反応が上昇することで、疲労回復が遅れて集中力や判断力が下がるなど悪影響を与えるのです。
その結果、情緒の安定まで損なわれると、プレゼンティーズムが深刻化し、業務効率の低下やミスの増加につながり、休職や離職のリスクまで高まります。悪循環が続けば、優秀な人材の離職につながり、企業にとって大きな損失となるでしょう。
冒頭で、肩こりや腰痛といった慢性的な痛みを抱えながら仕事を続けると、1人当たり月に約9,700円の生産性損失が生じるとお伝えしました。
例えば、社員数300名の中堅企業で単純に試算すると、1カ月で約291万円、年間で3,500万円を超える損失になる計算です。もちろん企業規模が大きくなるほど、この損失は指数関数的に増加します。
痛みや不調を放置することで離職者が出れば、採用コストの増加やノウハウの流出といった面でも会社への影響はマイナスです。
※「頚部痛・肩こり」約3.1兆円、「腰痛」約3.0兆円の合計額
出典 厚生労働省 慢性の痛み患者への就労支援/仕事と治療の両立支援および労働生産性の向上に寄与するマニュアルの開発と普及・啓発 分担研究報告書 痛みを抱える就労者の実態把握および汎用性のある評価尺度の基礎的検討 吉本隆彦 2022/06/07
肩こり・腰痛対策は費用対効果が高い
ここまでで、社員の身体の慢性的な痛みは「たかが肩こり、たかが腰痛」とバカにできない経営的な損失があることを解説しました。
ポイントは、こうした損失を軽減するための対策は大げさなものではなく、ちょっとしたことから取り入れられることです。
例えば、社員がこまめに姿勢をリセットし、適度な運動を行う習慣をつくるだけでも、慢性的な不調の予防や改善に大きく近づきます。始める際は、1日5分程度の短い時間からでもいいのです。ただし、そのために企業側が率先して就業時間内の一部を活用する仕組みづくりをサポートすることなどが重要です。