(※今回の発見につながった海洋生分解性の確認や、市販製品の共重合体比率が大きなカギになっていることは明確に示されていますが、具体的に「ナイロナーゼなどの酵素」「結晶構造が乱れることによる分解促進」といった詳細なメカニズムまでは公表されていません。研究者側もプレスリリース中で「微生物や酵素の専門家が参加して生分解メカニズムを検討中」と述べており、現時点では“どの微生物がどういった酵素で分解しているのか”という部分には踏み込んでいない段階です。)
いっぽうで、今回の結果をもって「ナイロン素材なら何でも分解される」と誤解するのは危険です。
実験で分解が確認されたのは、あくまで特定の共重合体比率のナイロンだけですし、分解速度は海域の条件(温度や微生物の種類など)に大きく左右されます。
たとえば、寒冷な海や生物の少ない環境では、同じナイロンでも分解が遅れる場合もあります。
今後はさまざまな海域での実証試験や、微生物によるメカニズムの一層詳細な解明が求められるでしょう。
それでも今回の発見は、ゴーストギア問題の解決に向けた大きな一歩です。
釣り糸だけでなく、漁網やロープなどにも応用が進めば、これまで長期間残留していた漁業廃棄物が自然に還る時代が来るかもしれません。
研究者たちも「教科書を書き換えるレベルの衝撃」と評しており、私たちの海を守るための新たな武器となる可能性が大いにあるのです。
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参考文献
これまで分解しないとされていた市販の釣り糸が海洋で生分解することを発見
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1267
元論文
第 74 回高分子学会年次大会
https://www.spsj.or.jp/nenkai/
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。