通常であれば何段階も操作を重ねる必要がある複雑な処理が、電池を介した全体エンタングル効果によってまとめて実行できるというのです。
これは、量子誤り訂正のプロトコルを大幅に簡略化する潜在力があると期待されています。
さらに、ハードウェア面での利点も見逃せません。
従来は量子ビットごとに配線を用意していましたが、この量子電池方式なら外部駆動の配線をほぼ取り除けるため、同じ冷却容器内により多くの量子ビットを実装できます。
研究チームは、この配線削減効果によって理論上4倍もの量子ビットを搭載できるという試算を示しています。
こうしたスケーラビリティの向上は、大規模な量子コンピュータを目指すうえで非常に重要なステップとなるでしょう。
ゼロ損失計算への道と残る壁

この新しい「量子電池駆動方式」は、量子コンピュータの設計に大きな変革をもたらす可能性があります。
なかでも注目すべきは、計算に必要なエネルギーを外部から供給せずにシステム内部で“循環”させるため、理論上は演算過程で熱がほとんど生じないという点です。
量子電池が量子ビットとコヒーレントにつながっているおかげで、エネルギーが散逸せず、何度も再利用できるわけです。
また、電池を中心に量子ビット同士を間接的に結びつけることで、柔軟なエンタングル(絡み合わせ)が実現しやすくなるのも大きなメリットです。
既存の量子コンピュータでは隣り合うビット同士だけを結合していたため、複雑な演算を組むのに手間がかかっていました。
量子電池方式ならオールトゥオールに近い接続が自然に得られるため、高度なアルゴリズムを効率よく実行できる可能性が広がります。
ただし、実際にこの方式をハードウェアへ落とし込むには、いくつかの技術的ハードルを克服しなければなりません。
たとえば、フォック状態と呼ばれる特定の光子数状態を長時間安定に保つ技術や、量子ビットの周波数を精密に切り替えるフラックス制御など、まだ研究段階の課題も多いのが現状です。