このように、より多くの量子ビットを使って計算能力を高めたいにもかかわらず、配線に起因する熱と構造面の制約が“ボトルネック”となっていました。

そこで研究チームが注目したのが「量子電池」という新しい概念です。

量子電池は、量子力学的な原理を利用してエネルギーを蓄えたり放出したりできる電池で、通常の電池とは異なり、量子ビット(負荷)と量子的にコヒーレント(相干渉)な状態を保ちながらエネルギーをやり取りできる点が特徴です。

つまり、量子ビットと電池が一体となって振る舞うため、理論上はエネルギー交換の際に熱が発生しません。

これまで量子電池そのものの研究は行われていましたが、それを量子コンピュータの「動力源」として活用しようという枠組みはありませんでした。

そこで研究チームは、世界で初めて「量子電池を用いて量子コンピュータを動かす」というコンセプトを打ち出し、内部電源方式の可能性を検討することにしたのです。

目指すのは、外部配線に依存せず、量子電池が供給するエネルギーだけで量子ゲート操作(論理演算)を行い、しかも従来と同等以上の演算精度を確保することでした。

こうして、量子ビットの増加が制約される根本的な原因である「外部からの配線」を劇的に減らすことができれば、より大規模な量子計算機を実現できるのではないか——。

それが研究チームの大きな狙いであり、本研究の原動力となっています。

量子電池が開く〈内蔵パワー〉革命

量子電池が開く〈内蔵パワー〉革命
量子電池が開く〈内蔵パワー〉革命 / Credit:Canva

今回の研究チームは、量子電池として単一モードのボソニック共振器(例:マイクロ波光子のモード)を想定しました。

まず、この共振器に一定数の光子(エネルギー量子)を蓄えておき、複数の量子ビットと結合させます。

すると、共振器と量子ビット群全体は“タビス–カミングスモデル”と呼ばれる理論で記述でき、系全体のエネルギー総和が保たれたまま、光子が量子ビット間を自由に行き来するようになるのです。