オーストラリアのクイーンズランド大学(UQ)で行われた研究によって、量子コンピュータの中に“量子電池”を組み込み、外部配線をゴッソリ減らしても演算性能を落とさない大胆な設計法が発表されました。
量子ビット(Qubit)をマイクロ波パルスで駆動する従来方式では、冷却機にまで伸びる膨大なケーブルが熱を持ち込み、規模拡大の最大の足かせになっていました。
しかし研究者たちは今回の研究で「電池となる共振器に光子エネルギーをため、必要なときだけ量子ビットへ受け渡せば、駆動ラインを丸ごと削除できる」と主張します。
理論シミュレーションでは、量子誤り訂正に不可欠なエンコード操作を98 %超の忠実度で実行できるうえ、冷凍機1台あたりに収容できる量子ビット数が最大4倍に跳ね上がる見込みも示され、配線地獄と発熱地獄を一気に解放する切り札になりそうだと注目を集めています。
実験室で産声をあげたこの“量子電池付き量子コンピュータ”は、本当に量子計算の未来を塗り替えるのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年3月26日に『arXiv』にて発表されました。
目次
- “熱”と“混線”という2大ボトルネック
- 量子電池が開く〈内蔵パワー〉革命
- ゼロ損失計算への道と残る壁
“熱”と“混線”という2大ボトルネック

従来の量子コンピュータは、室温付近の電子機器から配線を通じてエネルギー(マイクロ波パルスなど)を送り込み、極低温下にある量子ビットを制御する仕組みになっています。
問題は、こうした外部制御方式によって発生する「熱」と「配線の複雑化」です。
- 熱の問題: 配線を介してエネルギーを送り込む際に、どうしても熱が発生し、量子ビットを冷やす冷凍機(クライオスタット)に大きな負担をかけます。
- 配線の増大: 量子ビットが増えるほど制御線も増やさなければならず、結果として装置は複雑化し、物理的・冷却的にも限界が見えてくるのです。