意地悪で攻撃的な振る舞いをする生徒が必ずしも孤立するどころか、かえって人気者になり恋愛面でも成功しているケースがあるというのです。
このように、いじめ行動は短期的には個体に利益をもたらしうる戦略であり、進化的に見れば生存・繁殖の成功率を高める方向に働き得たと考えられます。
進化的利点は他にも考えられます。
いじめによって標的となった相手は萎縮し、加害者に逆らえなくなります。
その結果、いじめ加害者にとって都合の悪い競争相手を事前に排除できる(抑止力 deterrence)という側面もあります。
また残酷なようですが、一部の加害者は弱い相手を苦しめること自体にある種の「楽しさ」や快感(recreation)を覚えている可能性も指摘されています。
脳科学的にも、他者に勝ったり優位に立ったりする行為は報酬系を刺激し快感ホルモンが出ることが知られており、いじめ行動がそうした「報酬」によって強化される面もあるでしょう。
もっとも、いじめにもコストやリスクは伴います。
集団内で乱暴を働けば恨みを買い、将来的に報復されたり信用を失ったりする可能性もあります。
また、標的が反撃してきたり、第三者が介入して罰を受けたりすれば、いじめは割に合わなくなります。
したがって、いじめが進化的に適応かどうかは状況次第です。
研究者は、いじめを行う個人の性格や環境要因によって、その行動がもたらす費用対効果が変わる「条件付き適応 (facultative adaptation)」であると考えています。
つまり、周囲に見咎められず反撃もされない「やり得」な状況ではいじめが起きやすく、一方で報復や処罰のリスクが高い状況ではいじめは抑制される傾向にあるのです。
ゲーム理論で読み解く「いじめ」のメリットデメリット

いじめのような集団内での排除行動は、ゲーム理論の視点からも説明することができます。