ゲーム理論上、力の差が大きいとき弱者は従った方が得をするため、強者のいじめ・ゆすり行為が横行しやすくなるというわけです。

さらに集団全体の視点で見ても、時に「スケープゴート(生贄の山羊)」効果によっていじめが強化されることがあります。

哲学者ルネ・ジラールの仮説によれば、人類の進化史において集団内の対立を収束させるために、無意識のうちに一人の責めやすい個体に非難を集中させる「スケープゴート機構」が生じた可能性があります。

集団が誰か一人を生贄にして団結することで、内部の不和を解消し社会的安定を取り戻すという現象です。

これは宗教的な儀式や文化の起源とも絡む大胆な仮説ですが、日常のいじめに置き換えてみても、一つの集団が「異質なあの子」を標的にいじめることで他のメンバー間の連帯感が高まる、といった状況は想像に難くありません。

いじめられる側にとっては理不尽極まりないですが、いじめる側・傍観者側には集団の結束感という報酬が発生しうるのです。

このように、集団全体から見てもいじめは必ずしも非合理なだけの行動ではなく、一部の状況下では集団維持の機能すら果たしてしまうという、厄介な側面があります。

ちょっとだけ数学的にくわしく解説

いじめは集団内で繰り返される多人数ゲームとして捉えられる。加害者が弱者を標的に攻撃すると、被害者は反撃コストを恐れて服従し、傍観者も次の標的化を避けるため静観する。この構図では「介入>損失」という条件が満たされない限り、いじめがナッシュ均衡となり固定化される。優位者は資源・評判を獲得し、傍観者も安全と同調利益を得るため均衡はさらに安定する。均衡を崩すには、第三者罰や協調的介入により“介入の期待利得”をプラスに転じさせ、標的への移行コストを加害者に負わせる制度設計が必要だ。逆に高い血縁度や共同利益が大きい集団では、いじめが集団全体のコストとなるため抑制メカニズム(ポリシング)が進化しやすい。

いじめは進化的に適応か?―現代社会でのミスマッチ

いじめは進化的に適応か?―現代社会でのミスマッチ
いじめは進化的に適応か?―現代社会でのミスマッチ / Credit:Canva