いじめとは何か――生物学的な観点から考察してきましたが、それは人間の進化の遺産とも言うべき複雑な現象であることが見えてきます。

いじめ行動には進化上の理由があり、動物界にも広く存在する自然な一面を持ちます。

しかし「自然であること」と「許されること」は別問題です。

人間は進化の中で、攻撃性や序列競争心だけでなく協調性や共感能力も発達させてきました。

むしろ他者と協力し思いやる能力こそが、人類がここまで繁栄できた大きな要因です。

現代社会においていじめがミスマッチを起こしているのだとすれば、私たちは進化のポジティブな遺産(協調・公平・博愛の精神)を活かしてこの問題に対処していくべきでしょう。

科学的にいじめの起源やメカニズムを理解することは、決していじめを正当化するためではありません。

むしろその深い根を知ることで、より効果的な解決策を見出す助けになります。

例えば、いじめが起こりやすい状況(序列が固定し競争が激化する環境、閉鎖的な集団内のストレスなど)を把握し、環境を改善することができます。

また、いじめ加害者が満たそうとしている承認欲求や競争心を、スポーツや創造的活動など建設的な形で発散できる場を用意することも有効でしょう。

被害者だけでなく傍観者も巻き込んだ集団全体のアプローチ(いじめを許さない規範づくりや報告しやすい体制づくり)も大切です。

人類は環境を変え、自らの行動様式を変えていける柔軟さを持っています。

いじめの問題は根深く簡単には無くならないかもしれません。

しかし、私たちがその起源と理由を正しく理解し、進化の中で培われた「いじめに打ち克つ力」を発揮できれば、いじめのない社会に一歩ずつ近づいていけるはずです。

進化の視点から見た「いじめとは何なのか」という問いへの答えは、人間とは何者であるのかを考えるヒントにもなるでしょう。

長い歴史の中で形作られた影の側面を乗り越え、より良い未来を築くために──科学の知見を活かしていじめに立ち向かっていきたいものです。