しかし現実は、そんな都合のいいシナリオをあざ笑うかのように、静かに崩れ始めていきます。
住宅価格が下落を始めると、CDS契約者からの「保険金支払い請求」が一斉に殺到します。MBSが焦げつけば、その分CDSの補償義務が発生します。AIGの内部では、もはや誰がいくら契約しているかを把握することすら困難になっていたと言われています。
事実上、AIGは「1つの家に何百件もの火災保険」を同時に引き受けていた状態で、しかも「どれだけの火事が起きているのか」も把握しきれていなかったのです。
AIGの資金繰りは一気に詰まり、リーマン破綻からわずか数日後の2008年9月16日、AIGもまた破綻寸前に追い込まれます。
しかし今度は違いました。アメリカ政府は即座にAIGに1820億ドル(約20兆円)の公的資金を注入し、事実上の国有化に踏み切ったのです。
なぜリーマンは破綻させて、AIGは救ったのか?
その理由はAIGが保険会社だったからという理由が大きいでしょう。
AIGは単なる金融プレイヤーではなく、医療保険、生命保険、自動車保険、企業向けリスクヘッジ保険など、生活インフラに直結する事業を幅広く展開していました。
「もしAIGが倒産すれば、MBSとは無関係の普通の家庭や企業にまで、この混乱の影響が直ちに広まってしまう」そうした判断から米政府はAIGを救済することに決定したのです。
ただ、そのような理屈ならば、「他人のMBSにCDSを賭けていた人(≒投機的な買い手)まで救済されるべきなのか?」という疑問が浮かびます。
ただこれについては、結論からいうと他人のMBSにCDSを賭けていた場合の保険金(CDS支払い)もきちんと支払われました。
これは、リーマン・ショック後にアメリカ国内で最も強く批判された点の一つです。
そして、さらに問題視されたのはこのCDSの支払い先のひとつにゴールドマン・サックスがあったことです。