この保険契約は、普通の損害保険とは少し違って、“その債券を持っていなくても”CDS契約を結べるという性質を持っていました。

つまり、極端に言えば「他人が持っているMBSに対して、『もしそれが破綻したら自分にお金を払ってね』という保険を、自分で契約することができる」のです。

これをもう少しわかりやすく言うと他人の家に火災保険をかけて、その家が火事になるのを待っているような行為です。

みんなが他人の家の火事を待っているような異常な状況
みんなが他人の家の火事を待っているような異常な状況 / Credit:OpenAI

まるで“賭け”のようなこの仕組みに、ウォール街のヘッジファンドや投資家たちは熱狂しました。彼らにとってCDSはごく少ない保険料で莫大な補償額を設定できたため、ほんのわずかな支出で何十倍もの「保険金」が手に入る“夢の金融商品”だったのです。

そして、このCDSの発行を大量に引き受けていたのが、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)という保険の巨大企業でした。

AIGは本来、生命保険や自動車保険などを扱う、堅実な老舗保険会社として知られていました。しかし2000年代中頃から、同社の金融部門(AIGFP)がウォール街の投資銀行と結びつき、MBSやCDOに対するCDSの契約を爆発的に増やしていったのです。

このCDSという商品のすごさは、投資家にとっては「不安な債券に保険をかけて安心できる」仕組みであると同時に、保険を売る側にとっても“美味しい商売”だったという点にあります。

保険料は比較的高めに設定しても気にされない上、自分のものでないMBSにも保険を掛けられるため契約者の数は青天井。そして何より、当時は「住宅価格は下がらない」という楽観論が支配していたため、CDSが実際に発動するリスクは限りなく低いと思われていたのです。

AIGの保険セールスマンは、契約リスクではなく契約数が評価軸でした。契約数を積み上げることで巨額のインセンティ(ボーナス)がもらえたため、リスク管理そっちのけで、「売らなければ損」とばかりに営業に拍車がかかっていたと言われています。