このとき世界中の投資家たちは悟りました。リスクとは、いつか起きるかもしれない未来の話ではなく、「自分たちに突きつけられた現実」なのだと。
MBSの裏で動いていた、もう一つの“時限爆弾”──CDSとAIG
リーマン・ショックのニュースを見ていて、こんな違和感を覚えた人もいたかもしれません。
当時、破綻の危機にあったのは、リーマン・ブラザーズをはじめとする投資銀行ばかりでした。これはまあ納得できる話です。金融商品を作って売り、リスクを取っていたのは、主にウォール街の投資銀行だったからです。
ところが、そのなかに「AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)」という保険会社の名前が混ざっていたのを覚えているでしょうか?
しかも報道では、「債券に対する保険の支払い」が原因で破綻寸前になったとされています。
――債券に保険?
――株や為替には保険がかけられないのに?
――なぜ保険会社が、金融危機のど真ん中にいたのか?
こうした疑問を抱いた方は、まさに“本質”に気づいていたと言えるでしょう。
実はこのAIGの破綻危機こそ、リーマン・ショックが金融業者だけの問題ではなく、「金融システムそのものの歪み」だったことを示す決定的な出来事なのです。
リーマン・ショックは表向きMBS(住宅ローン担保証券)が原因とされていますが、その裏側では、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という“もうひとつの金融爆弾”が静かにカウントダウンを始めていました。
これは簡単に言えば、「債券が返済されなかった場合に備える保険」のような仕組みです。
たとえば、ある投資家がMBSを買ったとしましょう。その中にはサブプライムローンが多く含まれていて、「本当に返済されるのか不安だな」と感じたとします。
そこで登場するのがCDSです。「万が一、この債券が返済されなかったとき、代わりに損失を補填してあげます」という保険契約を結ぶことができるのです。