観測結果から逸脱する場合は、モデルの修正、シミュレーション、妥当性の検証を再度行わなければならない。その結果、実測値からの乖離が誤差範囲内に収まるようであれば、そのモデルは“ある程度妥当”であるという判断になる。「モデルの結果が不確実であることを伝える責任」は、専門家にもメディアにも課せられている。

6. 脱炭素政策が社会にもたらした主な影響

気候モデルは、もともと現実の気象システムを模擬するための“仮想の実験装置”にすぎず、その限界や不確実性を踏まえて活用されるべきものだった。しかし、いつの間にかその出力結果が「未来の現実」として絶対視され、それを根拠に莫大な公的資金や制度改革が推進される構図が定着した。

日本を含む先進諸国では、脱炭素・カーボンニュートラル・再エネ主力化・GX・カーボンリサイクルといった施策に数十兆円規模の税金と民間資金が投入され、経済・産業・生活の各層に大きな負荷を与えている。

脱炭素政策が社会にもたらした主な影響の比較考量表

もちろん、環境意識の向上やグリーン投資の創出といった表面的な成果も一部に見られるが、それを遥かに上回る深刻な副作用が、すでに社会のいたるところに表れ始めている。

電力価格の高騰は生産コストを押し上げ、物価上昇と賃金停滞が実質購買力を削ぎ、企業収益と家計の双方を圧迫している。結果として、経済の活力は削がれ、社会的不安や分断も強まっている。

このように、気候モデルに基づいた脱炭素政策は一定の成果をもたらしたものの、社会全体に及ぼす実質的・構造的なマイナス影響の方が現時点では明らかに大きいと評価せざるを得ない。

いま求められているのは、理念偏重の一方通行から離れ、科学と現実の均衡を取り戻す再構築的な気候政策ではないだろうか。

7. おわりに

今私たちに求められているのは、こうした「気候モデルの過信によって形成された単線的な未来像」から脱却し、より多様で柔軟な選択肢を再構築することだ。気候変動の対策もまた、科学と技術、経済と倫理、自然と人間の共生という広い視野のもとで、再設計されなければならない。