たった1秒と思うかもしれませんが、この種の無意識的な知覚過程において1秒の差は非常に大きな効果です。

実験では顔写真の中でもこちらを見つめる「正面を向いた視線」の顔と横を向いた「そらした視線」の顔を混ぜて提示しましたが、どちらの場合でも監視ありグループの検出速度向上が認められました。

さらに研究チームは、この結果が「監視されて緊張したから反応が速くなっただけ(社会的期待に応えようとしただけ)ではないか」という疑いも検証しました。

追加の対照実験として、全く同じ手順で人の顔ではない模様(ガボールパッチと呼ばれる中立的な縞模様)を見つける課題を行ったところ、監視あり・なしグループ間で反応時間に差は見られませんでした。

つまり、監視カメラに見られることで特に人の顔に対する感度が高まるのであって、何に対しても単に反応が速くなるわけではないことが分かったのです。

また被験者への事後アンケートでは、監視ありグループの人々も「監視のせいで自分の成績が変わったとは思わない」と答えており、主観的には影響に気付いていませんでした。

シーモア氏は「被験者自身は監視されていることにそれほど不安や意識を向けていないと報告しましたが、それにもかかわらず基本的な社会的情報処理にこれほど大きな変化が生じていたのです」と語っています。

サバイバル脳が招く代償

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Credit:Canva

この研究は、「見られている」という状況が私たちの無意識的な知覚を変容させうることを初めて実証的に示しました。

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

専門家たちは、人間の脳に備わった生存本能的な仕組みが関与していると見ています。

シーモア氏は「私たちが他者の視線や顔に素早く気付ける能力は、元々は捕食者や周囲の人間から身を守るために進化したハードワイヤード(生得的)な機能です。それが監視カメラに見られている状況でさらに強化されるようだ」と説明しています。