これらはいずれも工学や自然現象の解析に日常的に使われている基本方程式です。
以上の二段階を組み合わせることで、研究チームはニュートンの粒子論から連続体の流体方程式までを一直線に結ぶことに成功しました。
言い換えれば、「微視的な世界の法則から巨視的な世界の法則を導けることを示した」ことになります。
これはヒルベルトが19世紀末に夢見た課題を正面から射抜いた、歴史的偉業と言えるでしょう。
理論の土台が固まると、空も海も計算しやすくなる

今回の成果は、流体力学の方程式そのものの形を変えるものではありません。
エンジニアや物理学者が使うオイラー方程式やナビエ–ストークス方程式が突然アップデートされるわけでもありません。
しかし、この理論の裏付けが与える影響は計り知れないものがあります。
まず第一に、私たちがこれまで経験的に正しいと信じて使ってきた流体の方程式が、もっと根本的な原理(ニュートンの運動法則)から必然的に導かれることが示されました。
これは「なぜその方程式でうまくいくのか」を深いレベルで理解できたことを意味します。
今回の証明により、ニュートン力学・ボルツマン方程式・オイラー/ナビエ–ストークス方程式という三つの理論が矛盾なく一つの現実を記述していることが数学的に保証されたのです。
理論と現実の間に横たわっていた溝が埋められたことで、今後は流体の方程式に対する信頼性が一段と高まり、「なぜそれが成り立つのか」という疑問に対しても明確な答えが得られたと言えます。
さらに、この成果は物理学の他分野にも波及効果をもたらす可能性があります。
例えばプラズマ物理や凝縮系物理、あるいは量子力学や統計力学の領域でも、ミクロな描像(微視的法則)とマクロな描像(巨視的法則)を結びつけようとする研究が数多くあります。
ミクロとマクロをつなぐ数学的なリンクが明確になれば、理論間の食い違いによる予想外の破綻を防ぐことができるだけでなく、新たな現象予測につながる可能性もあります。