中でも氏の最大の目的がAfD潰しだったと思われ、今回、新しい政府ができるわずか数日前、つまり、自分の任期が終了する直前に、この、後々にまで尾を引く重大な決定を下した。さらにいうなら、このタイミングは、いくつかの世論調査でAfDが第1党になった直後でもあった。

フェーザー内相によれば、AfDが極右政党であるということは、1100ページもの書類が証明しているというが、その証拠書類は公開できないとのこと。これだけ見ても、ドイツは法治国家としてちゃんと機能しているのかどうか、疑わざるを得ない。

それを受け、CSUのドブリント新内相(予定)がすかさず、今後、その書類を検証すると約束したが、実はCSUも社民党に負けず劣らずAfD撲滅を唱えてきた政党だから、彼らが検証しても、憲法擁護庁の判定にお墨付きを与えるだけで終わる可能性は高い。

「民主主義の防衛」の名のもとに進む言論弾圧

結局、今、ドイツ政府が進めようとしているのは、邪魔な政敵を民主主義の敵と言いくるめて潰すことではないか。そのための別働隊が憲法擁護庁であり、しかも、使われているのは国民の税金。政府と異なる意見を主張すると、極右、ナチ、差別主義者などの烙印を押され、口が封じられてしまう実態は、すでにこのページで何度も書いてきたが、それが今回、さらに決定的になろうとしている。

ドイツでは、Xで与党の政治家を茶化しただけで侮辱罪で訴えられ、裁判で有罪になり、高額の罰金を課せられる。しかも、そういう提訴がゆうに1000件を超えている。例えば、「頭が弱い」と投稿されただけで政治家がその国民を訴え、裁判所が有罪の判決を下すのだから、言論統制はすでにかなり進んでいると言える。

こうなると、国民は面倒なことに巻き込まれたくないので、当然口をつぐむ。言論の自由は民主主義の要だが、それがドイツでは急速に蝕まれているわけだ。

もちろん、ジャーナリストも無事ではない。直近の事例では、フェーザー内相が「私は言論の自由が嫌いです」と書いたプラカードを持っているモンタージュ写真を掲載したジャーナリストが訴えられ、懲役7カ月の判決が降った。